空港からいきなりタクシーで大学に行き,帰りも(バスツアーは大学まで 送り届けられたので)大学からタクシーで空港まで行ったので, シンガポールを体験したとはほとんど言えない.それでもいろいろ 考えさせられることが多かった.
まず,こんなちっちゃな国がよく頑張っているなと感心させられたこと. (空港はこの国の東の端にあり,南洋理工大学は西の端にある. 端から端まで,タクシーでいとも簡単に行けてしまう.) 国民だって,中国語系,英語系,マレー系,インド系などの人々が 多民族国家を形成している. 1965年にシンガポールがマレーシア連邦から独立したときも, 世界の人々は,まもなくこの国は自然消滅するだろうと思ったそうな. ところが世界の人々の期待に反して,この国は今も生き残って 元気いっぱいに活動している. ぜひともその秘密(秘訣)を知りたいものだ.
もちろん,その主要な原因は政治にあるだろう. この国は,独立以来,一度も政権交代をしていない国だそうだ. よく,一党独裁と言うと,強力な軍事力や警察力を考えてしまうが, ここではあくまで民主的にそれが行われている. ガイドブックによれば,それなりの「巧みな」政治システム が採られているよう. でも,それだけだと,いずれ不満が高まり,自滅してしまう.
私が一番驚いたのは,食料自給率が極めて低いと言うこと. 海産物もなかなかおいしかったので,大学院生に聞いたら 「○○はフィリピン,○○はマレーシア,エビは日本」と 言っていた.エビが日本からとは信じられないので, 彼の発言は多少誤りを含んでいるかもしれない. しかし,ひっきりなしにタンカーが往来するあの海では 漁業が無理なことは明らか. これらの魚介類はすべて外国からの輸入であることは 確かと思う. 食事のときも,もう冬だというのに果物がとても豊富に 出されていた.高層ビルの一角でこれらを栽培したとは 考えれられないので,これらもまた外国産であろう. それにそもそも,この国では,水が外国産なのだ! (もちろん,さすが最近では,自国で多少の生産を しなければと,人工的に「飲料水」を生産し始めた ようであるが,まだまだ,大部分の水はマレーシアに 依存している.) 日本では,食料の自給率を維持するために,米の自由化 反対など,さまざまな取り組みに官民挙げて取り組んで いる.それなのに,この国はいったいどうなっているの?
しかし,ここまで来ると,案外,それも一つのスタイルかな とも思う. この国を攻撃しようと思えば,別に原爆やミサイル, 戦車などを持ち出す必要はない. 水を止めたり,食料の供給をちょっとストップさせればよい. だからこそ,この国の人々は,周りの国々との友好を 最優先に考えて行動をとる. (それしか,自分たちの生きる道はないからである.) 日本人のように,誇りが強く,弱いものの前ではとかく すぐに威張り出す民族にはとうてい真似のできない 芸当と言えよう. 国内的にも,多民族国家でありながら,一致団結が とてもうまく行っているよう. (特定の民族を優遇することなく,偏らず,平等にと いうことは,かなり強く意識されて,制度として 定着しているよう.それは同じ多民族からなる小国のスイスでも 強く感じた. こんな小さな国で民族紛争が起きたらそれこそ 惨めな結末が目に見えている.)
この国では第1次産業はほとんど存在しない. その代わり,それに何らかの付加価値を加えるということに よって,ビジネスを成立させている. 教育ですら,この国では重要な「ビジネス」としてとらえている と聞いた.この国では,大学教育まで含めて,教育は原則として 無料と聞いた.(「原則として」とは,具体的にどういう ことなのかをもう少し詳しく知りたかったのだが, その時間がなかった.残念.) 無料である代わりに,誰でも希望すればそれが受けられると いうことでもなさそう.かなり徹底した選別(試験)が 待ちかまえていて,高等教育を受ける資格なしと判定されると, 即,就職しなければならない仕組みになっているよう. 大学には世界中から学生が集まっているという印象を受けた. 大学にはかなりお金をかけているという感じがした. それによって,この国際的都市国家であるシンガポールが 次の時代に生き延びるための人材の「生産」をやっているのであろう.
ともかく,興味の尽きない国であった. でもここで暮らすとなると,私はきっと退屈してしまうだろう.